専門医のコラムDr's Column

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2015

牛乳と骨粗鬆症③

ホットミルク

カルシウム・パラドックス

牛乳を飲まないということはカルシウム摂取量が少ないことと同義に扱われることが多いようです。それでは、牛乳を飲まない日本人の方が牛乳を多量に飲む欧米人より骨量の減少が少ないというカルシウム・パラドックスをどのように解釈できるのでしょうか。

牛乳は骨粗鬆症をかえって助長!

なぜ、牛乳や乳製品のカルシウムが骨粗鬆症の予防にならないのか。9月20日のコラムで、動物性タンパク質・カルシウムの摂取量の多い国ほど骨粗鬆症による骨折が多いというアベロウの研究を紹介しました。アベロウはその理由を次のように説明しています。牛乳消費量の多い国では牛乳に加えて肉・チーズなどの高タンパク食品の摂取も多いです。タンパク質を構成するアミノ酸の中に、メチオニン・システインなどの含硫アミノ酸があり、動物性タンパク質は植物性タンパク質に比べてこれらの含硫アミノ酸を多く含みます。含硫アミノ酸は分解されて最終的に硫酸イオンとなり、体液の酸・塩基平衡を酸性側に傾けるのです。酸性になった体液をアルカリで中和して酸・塩基平衡を保たなければならず、中和に用いられるアルカリ源はカルシウムです。体内のカルシウムの99%は骨に存在します。中和にはもっぱら骨のカルシウムが使われることになります。実際、動物性であれ植物性であれ、タンパク質の摂取量が増えると尿中に排泄されるカルシウムが増えることは、1970年代に行われた代謝実験で報告されています。

Walker RM, Linkswiler HM. Calcium retention in the adult human male as affected by protein intake. Journal of Nutrition 102: 1297-1302, 1972.

Schwartz R, Woodcock NA, Blakely JD, MacKellar I. Metabolic responses of adolescent boys to two levels of dietary magnesium and protein. II. Effect of magnesium and and protein level on calcium balance. American Journal of Clinical Nutrition 26: 519-523, 1973.

Anand CR, Linkswiler HM. Effect of protein intake on calcium balance of young men given 500 mg calcium daily. Journal of Nutrition 104: 695-700, 1974.

Margen S, Chu JY, Kaufmann NA, Calloway DH. Studies in calcium metabolism. I. The calciuretic effect of dietary protein. American Journal of Clinical Nutrition 27: 584-589, 1974.

Chu JY, Margen S, Costa FM. Studies in calcium metabolism. II. Effects of low calcium and variable protein intake on human calcium metabolism. American Journal of Clinical Nutrition 28: 1028-1035, 1975.

高タンパク食の骨代謝に与える影響

アメリカの骨・ミネラル学会は、1997年、「高タンパク食の骨代謝に与える影響」をめぐってシンポジウムを開催しました。このシンポジウムで、アルバート・アインシュタイン医学校のバーゼル(Barzel US)とワシントン大学のマッセイ(Massey LK)は「必要以上にタンパク質を摂ると骨量が減る」ことを強調し、骨粗鬆症の予防のためにはタンパク質摂取を少なくし、野菜や果物(ともにカリウムが多い)を多く摂ることを勧めています。

Barzel US, Massey LK. Excess dietary protein can adversely affect bone. Journal of Nutrition 128: 1051-1053, 1998.

一方、クレイトン大学のヒーニー(Heaney RP)は、高タンパク食がカルシウムの尿中喪失を促すことは間違いないが、失われる以上にたくさんのカルシウムを摂れば骨量の減少を防ぐことができると述べました。

Heaney RP. Excess dietary protein may not adversely affect bone. Journal of Nutrition. 128: 1054-1057, 1998.

カルシウム摂取量が少ないときにたくさんのタンパク質を摂ることは問題であるが、摂取量が多ければタンパク質を多く摂っても問題はないと報告しました。タンパク質摂取量が50gであれば1000mgのカルシウム摂取が必要であり、75gのタンパク質には1500mgのカルシウムが必要というのです(ヒーニー氏は全米酪農評議会と国際乳製品協会の医学顧問をつとめ、アメリカとカナダにおけるカルシウム摂取量の勧告案を起草した方です)。これはとんでもない数値で、現実的に不可能な摂取量です。しかし、アメリカの食品・栄養委員会は1997年にこの数値を勧告しています•••。どのような目的で誰がアメリカのカルシウム摂取基準を定めているのか、推測出来そうですね。

乳糖分解酵素活性持続症(牛乳が飲める)の欧米人でさえ牛乳中のカルシウムは骨粗鬆症の予防に役立たないのです。役立たないどころか、牛乳は骨粗鬆症を助長しているようです。まして、酵素が無いため “牛乳が飲めない” 日本人が牛乳を飲んでもカルシウムは吸収されません。腸管内の水分だけでなく、腸上皮細胞内の水分も取り込んで、腸管内を下ってしまいます。日本人に対する牛乳の効能は便を柔らかくする効果だけと言っても言い過ぎではないでしょう。実際、”便通が良くなるから” という目的で牛乳を飲む方も多いと思われます。

当コラムは患者さんのお役に立てていただく参考資料として配信しております。

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